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日本人の海外留学に関する政策評価

2017年7月14日に総務省から『グローバル人材育成の推進に関する政策評価 <結果に基づく勧告>』が公表されました。『日本人の海外留学の促進(成果指標:平成24年6万人→平成32年12万人)』に対する、成果指標の達成状況は、6万→5.3万へと減少。一方、交換留学など、日本の大学等に在籍した状態で留学する者は増加(6.5万→8.4万)してはいるものの、約8割が6か月未満の短期留学で、かつ多くは1か月未満という結果となった。

日本人の海外留学に関する政策評価

企業のニーズとミスマッチの短期留学生のみが増加傾向に

企業が必要とするグローバル人材不足を補うことが、日本人の海外留学の促進の大きな目的だったはずが、ふたを開けてみると、企業のニーズとは全くマッチしていないことが浮き彫りになった形だ。

国民の血税を投入し、国が重点支援を行っているスーパーグローバル大学等事業採択60大学においても、企業側の、語学力、異文化理解、多様な価値観の受容の各能力のという面から、6か月以上の留学期間が必要との認識とは異なる結果が出されていることに対し、有識者の中からは、国民もメディアも声を上げることが無ければ、おそらく、2020年の12万人の成果目標達成ができないのではないかと囁かれている。何故このようなミスマッチが起こっているのか。

日本人の海外留学の促進が、企業のニーズとかけ離れてしまっている理由

目標に対する最終責任者の不在、民間の留学斡旋事業者団体等の現場の意見や声を全く聞くことなく進められる現行の大学や文部科学省の施策だけでは、目標達成は困難なことは明確。今回の勧告に従い、文部科学省が何らかの対応を行うはずだが、もし、企業が求める「語学力、異文化理解、多様な価値観」というグローバル人材の3要素の向上に対して短期留学でも効果があるという結論を出して整合性を取るような辻褄合わせが行われれば企業や国民不在の施策が行われたと言われても仕方がないだろう。また、多くの留学希望者の要望を聞きながら丁寧にそのニーズに答えてきている民間の留学支援会社のヒアリングを行わず、経験の浅いスタッフを中心とした大学の国際交流担当者に丸投げさせている構図となっているのが大きな要因の一つと言える。さらに、数年単位で配置転換が行われるため、留学の専門職スタッフが育たず、情報不足なうえ、長期的な視点で海外の大学の担当者とコミュニケーションを図り続けることが難しいのも要因の一つだ。

また、6か月以上の長期留学をする学生を増やすには、奨学金等の財源を確保ことが必要という議論ばかりなされるが、果たしてそうだろうか。日本の大学と同等程度の金額で留学する方法は幾らでもあるのに、そのような情報は手元に入手できず、大学間協定にばかりこだわるあまり、交渉して海外の大学側に奨学金を出して頂き、格安で受け入れてもらえる交渉も出来ていない。民間企業では普通に行われているような情報収集や交渉活動が十分に行われていないように思えてならない。

日本人の海外留学生を促進するための施策

大学進学や海外留学は将来の自分への自己投資である。自己投資をしてでも海外留学に行きたいと思わせるような留学の魅力がしっかり学生に伝えられているだろうか。今の10代の若者は、これから社会に出る準備をしてから40年以上働くことになるのだが、彼らが生きるグローバル競争時代に必要なスキルが一体何であり、学生時代にどのような経験を積んでおくべきかという高校生が描く自分のキャリアプランに留学の重要性を伝える努力がされていないように思える。日本が迎えているグローバル競争は待ったなしで、そのようなグローバルな競争社会の中で、生き抜く、勝ち抜きたいと思う若者を創出していくことが大切だ。

また、アメリカのトップスクールの学費はアメリカ人にとっても高額だが、アメリカでは、自分でお金を借り卒業後に返金していく仕組みがしっかりと整えられている。日本のように、仕事についていない時期も返済義務が発生する仕組みではなく、仕事につけなければ返済義務が発生しない合理的な返済の仕組み作りも必要ではないか。親が金銭的な負担ができないのであれば、ローン等を組んで、自己投資をしてでも行きたいと思わせるような留学の魅力作りと、行きたいという学生には積極的に融資していく仕組み作りが整えることが大切だ。

今回の総務省からの勧告を重く受け止め、しっかりと政府が掲げる目標と、企業のニーズに沿った結果が得られるよう尽力して頂きたい。

 

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